嚥下への取組みについて
「摂食・嚥下障害」とは
「摂食・嚥下障害」とは、なんらかの原因によって口から食べる機能が低下し、食べ物などが気管に入ってしまう(誤嚥)ことをいいます。場合によっては、誤嚥したもので気管が詰まったり(窒息)、肺炎(誤嚥性肺炎)を発症したりして亡くなることもあります。最近の調査では、肺炎は日本人の死因における第3位となっており、そのほとんどは高齢者といわれています。高齢者では、加齢による筋力低下や予備能力の低下がその背景にあり、ちょっとした体調の変化(風邪など)から誤嚥を生じ、窒息や肺炎を発症することがあります。超高齢社会に突入した日本では、摂食・嚥下障害の予備軍といえる方々が急増していると考えられます。
65歳以上の人の要介護の直接原因
厚生労働省の国民生活基礎調査(平成22年度版)によると、65歳以上の人の要介護(ほぼ寝たきり)の直接原因は、右記のとおりです。
これらのうちで1位の脳卒中は、摂食・嚥下障害の原因として最も多い疾患でもあります。2位の認知症では、中等度以上に進行すると食に関する行動に問題が生じやすく、重度まで進行すると誤嚥を生じるようになるといわれています。近年では、認知症高齢者が口から食べられなくなったときにどうするかが問題となっていますが、今後、認知症患者の数が増えることから、さらに大きな問題になると考えられます。4位の骨折・転倒は誤嚥の直接の原因とはなりませんが、先ほど述べたように高齢者では予備力が低下していますので、骨折による身体的・精神的なストレスなどから摂食・嚥下障害を発症することがあります。
摂食・嚥下障害の発見と対応の重要性
摂食・嚥下障害を発症すると、窒息や誤嚥性肺炎のリスクが高くなるばかりではなく、十分な水分や栄養を摂ることが難しくなります。脱水や低栄養は全身状態の回復を阻害し、リハビリテーションの効果が得られにくくなるため、栄養管理が大切です。また、咀嚼・嚥下能力に適した食事提供、食事の介助、水分や栄養の管理などといった患者様のサポート環境が必要となります。こうした対応は施設や自宅では難しいことがあり、しばしば退院が困難となる場合もあります。
胃瘻(いろう)から経口摂取へ
現在、重度の摂食・嚥下障害を有する方に対して、お腹から胃に穴をあけてそこから栄養を摂る、胃瘻(いろう)栄養が増えています。胃瘻栄養は優れた方法で、これによって在宅でも安心して暮らせる方が増えています。一方で、「口から食べる」ことは、たんに生命の維持に必要なだけではなく、ヒトにとって大きなよろこびでもあります。
また「食文化」という言葉があるように、食べることはその国や地域で人間らしく生きることでもあり、人間の尊厳と深い関わりがあると言えます。リハビリテーションとはたんなる機能回復ではなく、「人間らしく生きる権利の回復」や「自分らしく生きること」へ向けて行われる全ての活動をさします。したがって、胃瘻栄養となった方であっても、口から少量だけなら食べられる、あるいは食べる意欲がある方に対しては、それを支えることが求められています。
食べる喜びを支えたい
当院では、摂食・嚥下障害を有する方に対して、医師、歯科医師、看護師、言語聴覚士、歯科衛生士を中心に、嚥下チームや栄養サポートチーム(NST)、さらには胃瘻グループといった多職種で対応しています。嚥下チームのメンバーには日本摂食・嚥下リハビリテーション学会の認定士が8名(歯科医師1名、言語聴覚士7名)所属しており、日々研鑽を積んでいます。さまざまなかたちで、患者様が安心して地域で暮らせるようにサポートして参りますので、どうぞお気軽にご相談下さい。
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