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特集・コラム

高齢者の肺炎について 原土井病院 呼吸器内科 三好かほり

肺炎とは

酸素を体内に取り込むための「呼吸」に関連する器官を総称して「呼吸器」といいます。呼吸器は上気道( 鼻、咽頭、喉頭) 、下気道( 気管、気管支)、肺からなりたっています。

風邪、気管支炎、肺炎は、いずれも一般的には病原微生物(ウイルスや細菌)の急性の感染によって呼吸器が炎症を起こしたものです。

呼吸器の入り口にあたる鼻や喉などの上気道に病原微生物が感染して炎症を起こし、発熱や鼻水、くしゃみなどの症状がみられるものが風邪(=上気道炎)です。この炎症が下気道まで波及すると気管支炎を生じ、咳や痰が目立つようになります。

呼吸器の末端に位置する肺は、内部がブドウの房のように無数の袋状の組織=肺胞でできています。肺胞に張り巡らされた毛細血管のなかで、酸素と二酸化炭素のガス交換が行なわれます。この肺胞やその壁に炎症がおきるのが肺炎です。(図1) 肺炎の多くは細菌やウイルスによる感染症が原因ですが、誤嚥性肺炎や間質性肺炎など、さまざまな種類があります。

肺炎が広範囲に及んだ場合、身体に酸素を取り込めなくなったり、二酸化炭素を放出する能力が弱ったりして呼吸不全となり、命にかかわることがあります。また、肺炎を引き起こす細菌が血流に乗り、身体の全体に広がってしまうと、敗血症になり、場合によっては死に至ることもあります。

肺炎の症状は発熱、咳、痰、悪寒などであり、風邪や気管支炎とよく似ており、症状から見分けるのは難しいこともあります。風邪症状が長く続いたり、呼吸困難、胸痛、嘔気を伴ったりする場合には肺炎を疑います。

図1 風邪と肺炎のちがい

高齢者(65歳以上)の肺炎

高齢者は体力や免疫機能の低下、基礎疾患の存在などから、肺炎にかかりやすく、重症化しやすい傾向があります。免疫機能の低下のために発熱や咳、痰などの症状が出にくい、持病の影響で常時似たような症状があるために気づきにくい、肺炎の進行が速い等のために発見が遅れ、受診したときにはすでに重症というケースも少なくありません。何となく元気がない、食欲がない、ボーっとする、失禁、ふらつく、など普段と少し様子が違う場合に、その原因が肺炎ということもあるため、注意が必要です。

また、高齢者の肺炎では、誤嚥性肺炎の頻度が高いという特徴があります。

飲み物や口で咀嚼された食べ物は、嚥下(飲み込み)と呼ばれる反射運動によってのどを通過し、食道、胃へと送られていきます。何らかの原因でこの動作が阻害されると、食べ物がうまく飲み込めない嚥下障害の症状が現れることがあります。嚥下障害の原因は様々ですが、たとえ目立った基礎疾患がない場合でも、加齢とともに咀嚼機能や嚥下運動に関わる筋力、気管に入ったものを咳で外に吐き出す力は低下していくため、高齢者では誤嚥が起こりやすくなります。

本来口腔から咽頭、食道へと進むべき唾液や飲食物が、誤って気管のほうに入ってしまうことを誤嚥といいます(図2)。誤嚥した唾液や飲食物に含まれる細菌などが肺に侵入することにより起こる肺炎が、「誤嚥性肺炎」です。誤嚥すると必ず肺炎になるわけではありませんが、くり返すことで肺炎の発症リスクが高まるため、食事のときなどは誤嚥しないよう十分に気をつけることが大切です。

また、誤嚥するのは飲食時に限りません。たとえば睡眠中など、無意識のうちに〝むせ〞などの症状がないまま唾液や逆流した胃液が肺に流れ込むような誤嚥を「不顕性誤嚥」と言いますが、実は、多くの誤嚥性肺炎が不顕性誤嚥によって発症しています。

図2 嚥下と誤嚥のしくみ

高齢者の肺炎予防のポイント

肺炎は、高齢者の死因の上位に上がる重大なリスクです。肺炎を予防するために、特に次のことに注意しましょう。

《毎日の感染予防》

❶うがい、手洗い、マスクの着用

肺炎の原因となる病原体は、ほとんどは空気とともに鼻や口から吸い込んだり、手などについた細菌などが口を通して体内に入ったりすることにより感染します。こうした感染を防ぐためには、外出するときにはマスクをし、帰宅したら手洗いとうがいをするようにしましょう。

❷誤嚥を防ぐ

きちんとした姿勢で、飲食物は少しずつ口に入れ、よく噛んでゆっくり時間をかけて食事をするようにし、口に物を入れたまま話さないようにしましょう。嚥下障害の兆候がある場合(図3)には、食べ物に適度なとろみをつけるなどの対策が有効です。また、食後すぐに臥床せず、2時間程度は座位を保つようにしましょう。

図3 嚥下障害の症状チェック

❸口腔ケア

口腔内を清潔に保つことは、肺炎予防の意味でも非常に重要です。日頃からこまめなうがいや丁寧な歯磨きを行うとともに、定期的な歯科検診を受けるようにし、口腔ケアを行いましょう。

《免疫力を高める》

免疫力とは、身体の外から侵入してきた病原体を退治する力です。肺炎にかからないためには、この免疫力を高めることも重要です。食事や睡眠などをきちんととり、規則正しい生活を心がけましょう。ウォーキングや散歩など適度な軽い運動を習慣づけることにより、基礎体力を維持することが大事です。また、持病がきっかけになって体調が悪くなり免疫力が低下することもあるので、持病がある方はその治療をしっかり行ってください。また、喫煙は免疫力を低下させ、様々な呼吸器疾患の要因となりますので、禁煙することを考えましょう。

《予防接種》

肺炎の原因菌の第一位は肺炎球菌です。肺炎球菌のワクチンを接種することで感染や発症した際の重症化リスクを抑えることが期待できます。加えて、インフルエンザや新型コロナウイルス感染症から肺炎につながることもあるため、これらの予防接種もおすすめします。予防接種については、かかりつけの医療機関に相談してください。また、高齢者に対するこれらの予防接種に際し、費用助成制度がありますので、お住まいの市区町村にお問い合わせください。

肺炎予防は、免疫力を高め、病原体を身体に入れないことが基本ですが、これらのことは、ほかの感染症予防にも共通します。日ごろから習慣づけるようにしましょう。

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