特集・コラム

心不全と塩分の関係について以前(2025年3月号)ご紹介しました。今回は最近の心不全の傾向をご紹介したいと思います。ひとつは心不全とフレイルの関係、二つ目はカチカチ心不全についてです。
フレイルとは
最近フレイルという言葉をよく聞きます。フレイルとは加齢により身体的、心理的、社会的に虚弱になった状態のことです。病院では体重や握力の減少、歩く速さや活動量の低下、倦怠感(わけもなく疲れた感じ)があるかどうかでフレイルを診断しています。わが国では65歳以上の高齢者の約一割の方がフレイルと言われています。フレイルになると自立障害や健康障害を起こしやすくなります。また横になる時間が長くなりバランス感覚が悪くなりますから起きた時の立ちくらみが多くなって転倒の原因にもなります。フレイルでは風邪や転倒などのちょっとした原因で要介護状態になってしまいます。
フレイルと筋肉と心臓
フレイルの方は筋力が衰えています。そのためとかく運動不足になり、家に閉じこもりがちです。毎日の活動量が減るとからだのエネルギー消費量も減りますから食欲が落ちます。すると栄養状態が悪くなってさらに筋肉が落ちることになります。このようにフレイルは悪循環(フレイルサイクル)を形成することが特徴です(図1)。
フレイルでは筋肉が落ちますが、筋肉はからだの中で最大の臓器です。運動する時に使う以外にも筋肉にはさまざまな役割があります 。からだのクッションの役割をしたり、熱を生み出したり、血液やリンパ液を心臓にもどす大切な役割があります。特に歩く時に使う足の筋肉は重力で足にたまりやすい血液やリンパ液を絶えず心臓にもどしてくれます 。まさに足は第二の心臓といえるでしょう(図2)。
フレイルになると栄養状態や心臓の予備力が低下して心不全になりやすくなります。また心不全の方は倦怠感からあまり歩きませんのでフレイルが進行します。心不全とフレイルは負のスパイラルを作るといえるでしょう。心不全の方の中でフレイルの方は第二の心臓である足の筋肉も衰えるので心不全が治りにくく再入院を繰り返すことになります。フレイルは認知機能にも悪影響がありますから塩分制限が守れなかったり、お薬の内服が不規則だったりすることも心不全の治りにくさと関係がありそうです。
カチカチ心不全
最近NHKの「明日がわかるトリセツショー」でカチカチ心不全が紹介されていました。
心臓は収縮と拡張を繰り返すことにより血液を全身に送り出すポンプとしてはたらいてます。心不全は心臓がだんだん弱くなって命を縮める病気ですが、心臓の動きが弱くなって心臓がポンプとして十分な血液を送り出せない(収縮が悪い)状態をイメージしがちです。ところがそういう心不全より心臓の筋肉が硬くて膨らめないために全身から帰ってくる血液を十分に受け入れない(拡張が悪い)心不全の方が多いことが分かってきました(図3)。生活習慣病(高血圧など)はあっても心臓病はない方にカチカチ心不全が増えています。カチカチ心不全では生活習慣を見直して第二の心臓である足の筋肉を動かすことで心臓を楽にさせることが大切です。運動不足では血液やリンパ液が心臓にもどりにくくなり肺や足にたまるので息苦しさやむくみの原因となります。
心臓リハビリテーションと心不全療養指導士
フレイルは高齢者の心不全を悪化させ、心不全があるとフレイルも進行してしまうことが分かりました。またカチカチ心不全でも生活習慣を改めてよく歩くことが大切です。加齢によっても心臓はカチカチになる傾向があるため現在どこの病院も心臓リハビリテーションに力を入れています。心不全患者さんの生活習慣を見直して、体力(筋力)を向上させ、不安や抑うつを解消して、社会復帰・家庭復帰を実現することを目指して多職種で運動療法・服薬指導・栄養管理・生活指導を幅広く行うプログラムを包括的心臓リハビリテーションとよんでいます。
心不全パンデミックといわれるように急速に高齢化が進むわが国では心不全の方が増える一方です(図4)。心不全の方々が自宅や施設、地域に復帰した後に生活の質を向上させて再入院を予防していくには看護師、保健師、理学療法士、作業療法士、管理栄養士、薬剤師、臨床工学技士、公認心理師、歯科衛生士、社会福祉士などがチームとして心臓リハビリテーションに取り組む必要があります。そのため2021年度から心不全療養指導士の認定制度がスタートしました。心不全療養指導士はさまざまな職種のスタッフが心不全患者さんの情報を共有し、それぞれの視点を活かして療養指導を行う学会の認定資格です。当院では既に看護師2名、検査技師1名、薬剤師3名、理学療法士2名の計8名がこの心不全療養指導士の資格を有しており、心不全患者さんに対して質の高い療養指導を行っています。
最後に
心臓はいちど傷むと元にはもどりません。心不全の療養とは、疲れていてもひとつしかない自身の心臓をいたわりつつ長い人生を有意義に過ごすプロセスです。怠薬、過労、感冒、暴飲暴食などを慎み、心不全療養指導士を自分の味方につけて、自身の大切な心臓を生涯にわたってケアしてあげましょう。当院の心不全センターがそのお手伝いをできればうれしい限りです。
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