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特集・コラム

当院における心不全治療と今後の展開 九州大学医学部 第一内科心血管内科グループ加齢病態修復学講座 助教・原土井病院 循環器内科 稗田道成

心不全の定義とその進展ステージ

心不全とは、「心臓のポンプ機能がいろいろな原因で低下し、息切れや十分な運動が出来なくなり、寿命を短くしてしまう病気」と言えます。心臓に関わる全ての病気が行きつく先が心不全であり、生命予後に直結します。よって、心不全の正確な診断と心不全ステージに応じた最適な治療が必要です。心不全とその進展ステージを元にした心不全の分類を図1に表します。昨今、この心不全がとても問題になっています。

図1 心不全とそのリスクの進展ステージ

日本循環器学会.急性・慢性心不全診療ガイドライン 2017 年改訂版
http://www.j-circ.or.jp/guideline/pdf/JCS2017_tsutsui_h.pdf

高齢化と共に増加する高齢者の心不全

なぜ、この心不全が大変問題になっているかというと、その心不全患者数が急激に増えているためです。日本はすでに少子高齢化社会であり、世界の国々と比較しても、総人口に占める高齢者数の割合は非常に高い状態にあります。総務省「日本の将来推計人口」(平成29年)によると、2004年に日本の総人口は1億2784万人をピークに減少を始めますが、総人口の減少と裏腹に高齢化率は増加していきます。65歳以上の高齢化率は、2004年の19.6%から2050年には39.6%にまで上昇すると試算されています。心不全の発症予測数を計算してみると1990年台では10万人程度であったのが、2020年で35万人を突破し、その後も増加することが予想されています。心不全は感染症ではありませんが、その患者数の増え方が急なので、「感染症大流行」という意味のパンデミックという言葉を使って「心不全パンデミック」という先生もいます。

心不全診療とその実際

心不全の患者さんの対応について説明します。まず、内科全身の把握を行うと共に心不全症状(倦怠感、息切れ、起座呼吸、夜間呼吸困難、足のむくみ、体重)を問診します。他の疾患同様、既往歴や背景因子、心不全危険因子を把握します。バイタルサインと頚静脈の張り具合の程度を把握しながら、聴診で異常心音や肺雑音を聴取します。心電図と心音図を同時に可視化できる最新式聴診器を導入しています。心不全のスクリーニングに行われるのが、ナトリウム利尿ペプチドBNP/NT-proBNP)です。この値が高ければ、必要に応じて心電図、胸部X線写真、心エコーを実施します。心機能評価(収縮能、拡張能、弁膜症の程度)と血行動態を精査します。特に、心エコー検査は循環器診療の要です。
現在、心エコー専門医の二見崇太郎先生(火曜日午後)、心エコー技師の力丸氏、日熊氏、山本氏(新人)と共に病態生理に基づいた心エコー診断を行うようにしています。心不全診断フローチャートと治療アルゴリズムを図2、図3に表します。図1にもあるように、心不全は慢性の経過を辿りながら、徐々に悪化して行く病気です。心不全急性増悪のたびに心機能/全身状態が悪化して行くため、急性増悪イベントを予防する必要があります。そのため、内服/通院中断、塩分多寡、過労、感染症、心因ストレスなどの心不全増悪因子を無くしていく努力がとても重要です。

図2 慢性心不全の診断フローチャート

図3 心不全治療アルゴリズム

最新の経カテーテル的弁膜症治療法

ここ最近、循環器疾患の治療として、大きな変革を遂げたのが弁膜症の治療法です。今まで、心臓外科的手術が必要であった重症大動脈弁狭窄症、重症僧帽弁閉鎖不全症に対して、経カテーテル的にそれぞれ大動脈弁留置術(TAVI)、僧帽弁クリップ術(MitraClip)が行えるようになりました(図4-5)。全ての手技をカテーテルで行えるため、胸骨切開や人工心肺の必要がなく手術侵襲がほとんどありません。今まで外科的手術が必要だった弁膜症の治療が、カテーテル治療後数日で自宅退院できるようになったのです。当院では、九州大学病院や福岡和白病院など最新カテーテル弁膜症治療ができる実施施設と連携を深めており、治療が必要な患者さんを適正に診断し、紹介・逆紹介ができる体制になっております。

図4 経カテーテル的 大動脈弁留置術

図5 経皮的僧帽弁クリップ術

心臓リハビリテーションの重要性

心臓リハビリテーションとは、循環器疾患の患者さんが、運動療法により、低下した体力を回復し、社会や職場に復帰し、さらに原疾患の増悪と再発を予防することです。健康長寿を目指して、運動療法(有酸素運動+レジスタンス運動)・患者教育・生活指導などを行うことで、快適で質の良い生活を取り戻すための総合プログラムです(図6)。よって、薬剤内服やカテーテル治療同様、全ての循環器疾患に心臓リハビリテーションは必須の治療と言えます。心臓リハビリテーションによって、運動耐容能、冠動脈危険因子、自律神経調整、血管内皮機能、不安・うつ状態の改善がすでに証明されています。その結果、心不全再入院や死亡率が減少することも分かっています。今後、循環器内科としても指導士資格を持つ樋口氏、井澤氏、西門氏、谷川氏、池江氏、松本氏、宮本副部長と共に心臓リハビリテーション診療を大幅に促進していく方針です。

図6 心臓リハビリテーションの実際

さいごに

当院では、循環器専門外来を毎週火曜日と木曜日に行っています。循環器とその関連の内科疾患を中心に全身を見る循環器内科外来を目指しています。心不全に限らず全ての循環器疾患(虚血性心疾患、弁膜症、不整脈、下肢動脈閉塞)に対応いたしますので、気軽に受診していただければと思います。7月末より、冠動脈CTも導入する予定ですので、冠動脈や大動脈疾患が気になる方がおられれば、併せてご相談ください。丁寧な診療を行い、院内はもとより地域の連携病院・開業医の先生方とも積極的に協力し、信頼していただけるよう努力していきます。

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