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特集・コラム

放射線科医が診る「肺がん」 原土井病院 画像診断部長 村上 純滋(放射線科専門医)

近年の肺がんの傾向

今、日本人の2人に1人は一生涯でがんに罹り、3人に1人はがんでなくなっています。がんは国民病と言ってよいかと思います。厚労省からの死因別死亡率の推移(図1)を示しています。

図1:死因別死亡率の推移

がんの死亡者数が右肩あがりに増加していることがよくわかります。また、がんの中でも肺がんは男性では死亡率第1位、女性では第2位となっています。診断や治療法の進歩により、5年生存率は確実に向上していますが、2019年のデータではすべての肺がんでの5年生存率は40%程度で、Ⅳ期の進行癌は5%と最も予後不良のがんの一つです。この表は肺がんの手術症例を約5年毎の推移でみたものです(表1)。

表1:肺がん手術症例の経年推移

女性、高齢者、小型肺がん、腺がんの割合が増加しています。個人情報ですが、インターネットで公開されていますので、肺がんで亡くなられた有名人を取り上げて見ました(図2)。

図2:肺がんで旅立った著名人の方々

芸能界、マスコミ、スポーツ界で活躍された、懐かしい方々です。ご冥福をお祈りいたします。どの臓器のがんでも言えることですが、肺がんで命を落とさないためには、何と言っても、早期発見、早期治療につきます。  

隠れた病変を見逃さないために

肺がんの画像検査には、胸部X線検査、CT検査、PET検査(当院ではPET検査の代わりに、MRIでPET様画像を提供)などがあげられます(図3)。

図3:肺がんの画像診断(中央上:胸部X線写真、中央下:CT像、右:PET像)

画像の果たす役割としては、まず、病変を見つける「存在診断」病変があった場合にその性質を判断する「性状診断」がんの診断がされた場合には、がんの広がりを判定する「病期診断」、そして、肺がんの治療中または治療後の再発の有無をチェックする「経過観察」があげられます。
胸部X線写真は簡単に撮れ、体にも負担が少なく、検査料金も安いので、肺の病気を見つける目的では最初に行なわれる検査です。しかしながら、心臓や横隔膜に隠れている肺がん、小さな肺がん、淡い陰影を呈する肺がんを見つけるには注意が必要ですし、胸部X線写真の限界もあります。胸部X線写真で、少しでも気になる変化があれば次はCT検査です。当院に入っているCT装置は超高速CT装置で、胸部の検査であれば2秒の息止めで検査が終了します。検査室での所要時間は10分程度です。胸部X線写真と比べますと、CTでは8~17倍、肺がんが発見できます。ただし、放射線被曝量は50倍、検査料金は約5倍です。最近では被曝量低減化の技術が進み、胸部X線写真と比べて2~10倍の被曝で検査が可能になりました。日本は人口あたり世界一のCT保有国であり、他国と比較すると検査料金も安く、アクセスが良いことが大きなメリットです。
小さな肺がん症例を供覧いたします。40歳代の男性で、胸部X線写真で右下肺野に淡い小さな結節が疑われ、CT検査が行なわれました(図4)。
CT検査では肺がんを疑う結節が明瞭に描出されており、手術となり、病理結果は16×11×8ミリの肺がんでした。2センチ以下で発見され、転移もなく、その後、問題なく元気で過ごされています。

図4:検査画像

肺がん検診のススメ

現在の対策型肺がん健診では胸部X線検査がおこなわれています。40歳以上全員が対象で、主として肺野のがんを見つけることを目的としています。また、50歳以上の重喫煙者【喫煙指数(一日の喫煙本数×喫煙年数)が600以上の方】には、痰(たん)の検査を追加するとされています。しかし、欧米と比べて、受検者率が40%程度と低いことが問題となっています。
最近では、重喫煙者では胸部X線検査よりもCT検査を受けられた方が、肺がん発見率や死亡率減少効果がえられるとの結果が報告され、肺がんの対策型健診の新たな流れが議論されています。現在、非喫煙者や低喫煙者でも同様の結果がでるかどうかの調査が行なわれており、10年後には結果が判明し、その結果によっては対策型検診方法に大きな変化が出てくると思われます。
以上、「肺がん」の画像診断について述べましたが、この病気で命を落とさないためには、早期発見早期治療が必要です。定期的に検査を受けて、健康な毎日をお過ごしください。

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