インフォメーション

特集・コラム

緩和ケアいろいろ ~22年目の振り返りとこれから~ 原土井病院 緩和統括部長・診療部長 患者支援センター長 山下 和海

2001年4月、当院の緩和ケア病棟は20床にて開設されました。その後2009年2月には30床に増床され、今年で22年目を迎えました。この間、日本のホスピス緩和ケアの歴史の流れに沿うように、当院の緩和ケア科もその役割を展開しています。具体的にはⅠ 緩和ケア病棟での診療Ⅱ 緩和ケアチームによる院内活動Ⅲ 緩和ケア外来の開設Ⅳ 在宅医との連携などです。今回の特集では当院緩和ケアの22年の歩みとこれからについてお伝えしたいと思います。

Ⅰ 緩和ケア病棟での診療

日本のホスピス緩和ケアは病棟診療の確立から始まりました。がんによる苦痛は単に身体の痛みだけではなく、不安や恐れなどの精神的苦痛、仕事や家庭の問題などの社会的苦痛など様々です。(図1)麻薬鎮痛薬の安全かつ正しい使用方法から、患者や家族に対するケアまで、その内容の水準化が重要なテーマでした。お陰様で現在では、日本全国どこででも安定した緩和医療を受けられる環境が確保されています。また当院の緩和ケア病棟においても、歴代から現在までの病棟看護スタッフの修練により、ケアの内容は安定したものとなっています。余談ですが病棟に隣接する幼稚園からは昼間、子供たちの声が聞こえてきて、心を和ませてくれます。その影響もあるのでしょうか、気負わず、自然体な雰囲気が「原土井ホスピス」全体に流れていると感じます。繰り返し当院緩和ケア病棟をご利用いただいている患者様、ご家族が多いのも「原土井ホスピス」の特徴かもしれません。

図1 全人的苦痛(total pain)とは?

Ⅱ 緩和ケアチームによる院内活動(PCT委員会)

2006年、がんの治療法や予防法、早期発見対策などを推進するために「がん対策基本法」が定められ、翌2007年4月に施行されました。この基本法において、緩和ケアの分野に求められたのは「がんと診断された時からの早期介入」や「がん診療に携わる医療従事者への緩和ケアの知識の普及」でした。これを受け、当院では2009年から院内公認の緩和ケアチーム=PCT委員会の活動を開始しました。委員会は医師、看護師、薬剤師、理学療法士、医療ソーシャルワーカー、事務職など幅広い職種で構成され、❶緩和ケア病棟以外の病棟に入院しているがん患者を診療している医療スタッフへのサポート、❷院内外への緩和ケア関連情報の発信、❸緩和ケア関連の研修会の企画・運営などに取り組んでいます。

Ⅲ 緩和ケア外来の開設

「がん対策基本法」以降、がん患者の自宅療養を支援する医療機関が増えてきました。当院においても2009年「緩和ケア外来」を開設。以来全身状態や病状が許す限り自宅で療養を継続したいという想いを緩和ケア外来でサポートしてきました。緩和ケア外来での診療は病状の評価だけに留まらず、ご自宅での療養状況の聞き取りやご家族に看病疲れがないかどうかの確認、緊急時の対応など多岐にわたりますが、外来のスタッフや院外の調剤薬局との連携に大いに助けられています。

Ⅳ 在宅医との連携「在宅療養後方支援病院」として

近年、在宅医療に重点的に取り組む医師の増加・普及に伴い、在宅療養を選択される患者様が増えています。患者様の意向に応えていくために、緩和ケア診療に対応されている在宅医との病診連携を大切にしています。特に、あおばクリニック(東区青葉)、伊東内科小児科医院(東区名島)、にじいろライフサポートクリニック(糟屋郡須惠町)には専門的な緩和ケアが必要となる患者様の対応を度々お願いしています。このような、がん患者の在宅療養を具体的に支える仕組みの一つとして、厚生労働省が定めた在宅療養後方支援病院(図2)と言われる制度があります。患者様の病状が安定している時期に、在宅医の先生より情報提供書をいただいておき、いざ入院が必要な時に円滑に受け入れられるよう、事前に準備をしておくシステムです。この仕組みは非常に具体的で有用なものだと考えています。これからも益々利用が進むでしょう。

図2 在宅療養後方支援病院の仕組み

Ⅴ 今後の展開

❶ 非がんの緩和ケア

緩和ケア分野における今後の展開のひとつとして挙げられるのが、がん以外の疾病に対する緩和ケア、非がんの緩和ケアです。主に、心不全、呼吸不全、腎不全、肝不全など病状が厳しい疾患の終末期に伴う様々な苦痛や倦怠感、呼吸苦、不眠などの症状の軽減に、がん緩和ケアでの知識や技術を応用して対応していこうというものです。
がん以外の疾患においては、麻薬鎮痛薬の使用量が少ないという傾向などに配慮しながら対処しています。苦痛や不安が軽減されると体力も温存されることになりますので、非常に大切な医療だと考えています。

❷ 心不全におけるリハビリと緩和ケア

非がん疾患の中で、今後「心不全」が増加することが予測されています。心不全の患者さんに対しては、心不全の診断・加療、心不全のリハビリ(入院・外来通院・在宅)、そして心不全の緩和ケアという一連の医療サービスの提供が重要だと考えます。原土井病院では今後、心不全リハビリに重点を置いていきます。(図3)

図3 心不全とそのリスクの進展ステージ

❸ 地域包括ケアシステム

高齢者も障がい者も、がん患者も、非がん重症疾患の患者も、住み慣れた地域で療養生活を送れるように、既存の社会資源やインフラの再編成や、新規プロジェクトなどが進められています。ここ2年程のコロナ禍において、遅れた部分もあれば、逆に進んだ部分もあります。
疾病予防や地域社会の連携、地域再生をも見据えた地域包括ケアシステムにおいて、緩和ケアに求められる役割も益々大きくなるものと予想しています。地域の皆様のご期待に応えていけるよう努めて参りますので、今後ともよろしくお願いいたします。(図4)

図4 地域包括ケアシステムとは(福岡市ホームページから)

インフォメーション

ページの先頭に戻る

menu