インフォメーション

特集・コラム

心不全の心臓リハビリテーション

はじめに

高齢化が急速に進んでいる我が国では、約100万人以上の人が心不全に罹患しているといわれています。更に医療費全体の約30%が心血管疾患の治療に必要であるといわれています。心不全は、高血圧、心筋梗塞、不整脈などすべての心疾患の終末像です(図1)。

図1 高齢者心不全の原因

これまでの心不全についての臨床研究により、β遮断薬、レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系阻害薬、ARNI、SGLT2阻害薬などの治療薬のなかからその患者さんに最も適した治療薬を選択する「至適薬物療法」が広く使用されるようになっています(図2)。

図2 生命予後改善効果を有する心不全の至適薬物療法

これらの薬物療法により、心不全の長期予後は劇的に改善していますが、至適薬物療法にもかかわらず、心不全が増悪してしまう症例は数多く存在します。特に、高齢者心不全の患者さんの数は爆発的に増えています。また、それに伴う医療費の爆発的な増加が予想されることから、心不全の治療目標として長期生命予後の改善に加え心不全増悪による入院回数を減らすことは、今日、極めて重要な臨床的課題となっています。

心不全の症状・検査・治療

心不全とは、心臓が悪いために、息切れやむくみが起こり、だんだん悪くなり、生命を縮める病気です(図3)。

図3 心不全の定義

心不全症状には、倦怠感、息切れ、夜間呼吸困難、足のむくみ、頚静脈怒張、体重増加などがあります(図4)。他の疾患同様、既往歴や背景因子、心不全危険因子(内服・通院中断、塩分多寡、過労、感染症、心因ストレス)を確認します。バイタルサイン(脈拍、血圧、呼吸、体温)と頚静脈怒張の程度を把握しながら、聴診で異常心音や肺雑音を聴取することが大事です。心不全のスクリーニングに行われるのが、ナトリウム利尿ペプチド(BNP/NT-pro BNP)の血中濃度測定です。ナトリウム利尿ペプチドはホルモンの一種で、血中濃度が高ければ心不全が疑われます。また、必要に応じて心電図、胸部X線写真、心エコーを実施し、心機能評価(収縮能、拡張能、弁膜症の程度)と血行動態を詳細に評価します。心不全診断フローチャートを(図5)に表します。

図4 高齢者心不全の臨床像

図5 慢性心不全の診断フローチャート

包括的心臓リハビリテーションの重要性

心臓リハビリテーションは1970年代に急性心筋梗塞発症後の患者さんを対象に早期離床と社会復帰を目標に実施されるようになったことが始まりです。その後、急性心筋梗塞後のみならず、冠動脈インターベンションや冠動脈バイパス手術後を含めた冠動脈疾患全般に対して、運動療法や患者教育、カウンセリングを包括的に行う心臓リハビリテーションが運動耐容能を改善するとともに、二次予防に有用であることが十分なエビデンスとともに確立されてきました。一方、心不全に対する心臓リハビリテーションも、運動療法が神経体液性因子や炎症性サイトカイン、血管内皮機能、骨格筋代謝等の改善を介して、運動耐容能を改善し、再入院率の低下や長期生命予後の改善に有効であることを示すエビデンスが蓄積されてきています。その結果、心不全再入院や死亡率が減少することも分かっています。このような多面的効果を有する心臓リハビリテーションは、最近では多職種チームが関与して実施する包括的疾病管理プログラムとしての有用性も認識されるようになっています(図6・7)。

  • ※運動耐容能:どれくらいの運動に耐えられるかの限界能力のこと。

図6 高齢者心不全の臨床像

図7 慢性心不全の診断フローチャート

心臓リハビリテーションの本質的な目標は、循環器疾患の患者さんが、運動療法により、低下した体力を回復し、社会や職場に復帰し、さらに原疾患の増悪と再発を予防することです。健康長寿を目指して、運動療法(有酸素運動+荷重負荷運動)・患者教育・生活指導などを行うことで、快適で質の良い生活を取り戻すための総合プログラムです(図8)。

図6 高齢者心不全の臨床像

よって、薬剤内服やカテーテル治療同様、全ての循環器疾患に心臓リハビリテーションは必須の治療と言えます。今後、原土井病院では医師、理学療法士、看護師、管理栄養士、薬剤師、臨床検査技師、放射線技師といった多職種からなる心不全リハビリチームを立ち上げ、心臓リハビリテーション診療を大幅に促進していく方針です。
①急性心筋梗塞、②狭心症、③開心術後(冠動脈バイパス術・弁膜症手術など)、④慢性心不全、⑤大血管疾患(大動脈瘤・大動脈解離など)、⑥末梢動脈閉塞性疾患の病気を持っている患者さんは心臓リハビリの適応になります(図9-10)。

図6 高齢者心不全の臨床像

図6 高齢者心不全の臨床像

これらの疾患があり、少し動いただけで息切れがあったり、何をするにしても筋力の衰えを自覚する患者さんがおられましたら、ぜひ原土井病院の心不全リハビリチームにご相談ください。

インフォメーション

ページの先頭に戻る

menu