インフォメーション

特集・コラム

肺炎について 原土井病院 総合診療科 永樂 訓三

今回は肺炎についてお話ししたいと思います。
厚生労働省の人口動態統計によると、令和2年に亡くなった方の死亡原因で肺炎は第5位、誤嚥性肺炎が第6位でした。肺炎で亡くなる方の97%、誤嚥性肺炎では98%が65歳以上であり、肺炎はがん・心臓病・脳血管疾患と並んで高齢者の主要な死亡原因を占める病気です(図1)。

図1  日本人の死亡原因

風邪と肺炎

図2  風邪と肺炎「風邪と思っていたら肺炎だった」という話を耳にすることがあります。風邪と肺炎の主な症状には発熱・せき・たんなど共通のものがあるため、これだけでは風邪なのか肺炎なのか区別することは難しいです。しかし、「肺炎は風邪のひどいもの」ではありません。
どちらも空気の通り道(気道)に起こる炎症ですが、風邪の場合は鼻~のどにかけての炎症にとどまる(上気道炎)のに対して、肺炎は名前のとおり肺に炎症を起こします。

図2  風邪と肺炎

風邪の症状はのどの痛みやせき、鼻水、くしゃみ、発熱、倦怠感などが主で、大半はウイルスによって起こります。通常は数日~1週間程度で軽快し、扁桃炎などの細菌感染を除けば抗菌薬(抗生物質)は不要です。
肺炎の場合は、初期症状は風邪と同様ですが、38℃をこえる高熱が3~4日以上続き、激しいせきとともに色のついたたんを認めます。また肺で酸素を取り込むことが出来なくなり、呼吸困難感や息切れが出現することがあります。ただし高齢者の場合は典型的な症状が出現するとは限らず、本人の自覚症状も目立たないことがあるので注意が必要です。熱やせきがなくても、なんとなく元気がない、食事を摂らないなど、いつもと様子が違う時は、実は肺炎を起こしているのかもしれません。

肺炎の原因

大まかに細菌・ウイルスなどの病原体が引き起こす感染性の肺炎と、自分自身の免疫系の異常やアレルギー・薬剤の副作用などによって起こる非感染性の肺炎に分けられますが、「肺炎にかかった」という場合の多くは感染性肺炎で、ここで説明します。
肺で空気交換が行われているのは、気道の終点にあたる肺胞という小さな袋です。この肺胞の中に病原体が侵入して、肺胞の壁に炎症を起こすことで肺炎が起こります。病原体が肺胞に到達するためには気道を通らなければなりませんが、気道には吸気中に含まれる異物を排出するための仕組みがあり、健康な人の場合、病原体は肺胞に届く前に排除されます。
風邪やインフルエンザなどの感染症を起こした後は、気道粘膜の細胞が傷ついているため、異物を排除する機能がうまく働かず病原体が肺胞まで到達して、「風邪をこじらせて肺炎になる」こともあります。
異物を排除する機能は年齢とともに低下します。また喫煙習慣やぜんそくなどの呼吸器系の持病がある方はもともとその働きが弱く、さらに生活習慣病やがんなどの持病がある方は免疫力も低下しています。だから、高齢者や持病がある方は健康な方と比べて病原体が肺胞に侵入するリスクが高く、肺炎にかかりやすいのです。
誤嚥性肺炎は高齢や脳血管障害などのため嚥下機能が低下している方に起こりやすい肺炎で、飲食物や唾液、吐物が気管へ吸い込まれる(誤嚥)ことで、口の中の常在細菌などが肺胞に侵入して感染が起こります。

図3  肺炎の発症や重症化に関わる因子

肺炎の治療

治療の大前提は安静・休養と水分補給です。必要に応じて解熱剤の使用や酸素投与、排痰促進などの対症療法を行って体力の消耗を抑え、加えて病原体を退治するための治療を行います。重症化すれば酸素投与や人工呼吸管理、肺での重篤な炎症を抑えるためにステロイドなどの投与が必要になり、生死の境をさまよい、治癒しても生活の質が大きく低下することになります。重症化の前に適切な治療を受けることが重要です。
細菌性肺炎に対しては抗菌薬の投与が有効ですが、やみくもに抗菌薬を使用すれば効果がないだけでなく、耐性菌が出現する危険性も高くなります。患者の症状や環境を考慮して原因となっている菌を推定、また喀痰培養検査などで特定し、適切な抗菌薬を使用します。
ウイルス性肺炎の治療は、一部のウイルスを除いて治療薬がないため、必要に応じて酸素投与やステロイドなどの炎症を抑える投薬を行いながら自身の免疫力がウイルスに打ち勝つのを待つしかありません。新型コロナウイルス感染症に対する治療薬も研究開発が進んでいますが、インフルエンザのような特効薬は未だにありません。

肺炎の予防

基本となるのは標準的な予防策です。日頃から、帰った際の手洗い・うがいで風邪などの感染症を予防しましょう。せきやくしゃみが出る場合はマスクや布などで飛沫が周囲に広がらないようにしましょう。身体を清潔にたもち、バランスよい食生活や適度な運動を心がけて、免疫力を高めることも大切です。またたばこを吸っている人は禁煙するだけでも予防になると思います。

図4  肺炎の予防

肺炎球菌に対しては、ワクチン接種によって肺炎の発症や重症化を予防することが期待できます。細菌性肺炎の原因として最も多いのが肺炎球菌で、高齢者では重症化を来しやすいため、肺炎球菌ワクチンを接種しておくことをおすすめします。65歳以上の高齢者は、65歳・70歳・75歳・80歳……のいずれか1回だけ、23価ワクチン(23種類の肺炎球菌に対して効果があります)を定期接種することが出来ます。また13価ワクチン(13種類の肺炎球菌に効果があり、長期の予防効果が期待できます)は自費の任意接種ですが、両方とも接種しておくと予防効果が高まると考えられています。予防接種についてはかかりつけの医師とご相談ください。

図5  肺炎球菌ワクチンの予防接種

おわりに

肺炎の多くは日頃からの予防で発症のリスクを減らすことができ、また肺炎になっても早期に適切な治療を行うことで重症化を防ぐことが期待できます。風邪症状が長引くなど体調がおかしいと感じた場合は早めにご相談ください。また高齢者の場合は肺炎に限らず、脳梗塞や心筋梗塞などの重篤な病気、また時には骨折などの外傷が隠れている場合もありますので、様子がおかしければ直ちに受診し、異常がないか調べることが大切です。

インフォメーション

ページの先頭に戻る

menu