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特集・コラム

当院で導入する心肺運動負荷試験

はじめに

原土井病院では、心肺運動負荷試験(CPX)を導入します。運動耐容能※1や心臓リハビリ分野に欠かせない運動負荷検査です。実際にNASAの宇宙飛行士やオリンピック選手が運動耐容能の評価として使用しているシステムと同じものです。このCPXを導入し、今後、心臓リハビリの運動処方、包括的心臓リハビリの外来診療、入院診療に積極的に活用していく予定です。また、高齢者心不全や高齢サルコペニア※2診療にも力を入れ、栄養リハビリを実装して、推進していきます(図1)。高齢者心不全の患者さんを広く、外来や入院で受け入れていく予定です。

図1 CPXを導入し、至適運動処方を科学的に実践

  • ※1)運動耐容能:どれくらいまでの運動に耐えられるかの限界能力のこと。
  • ※2)サルコペニア:筋肉量が減少し、筋力や身体機能が低下している状態。

最高酸素摂取量は運動耐容能と生命予後を規定します

人間は、1日に一万七千〜二万回ぐらい呼吸を行い、酸素(O2)を取り込んで、二酸化炭素(CO2)を排出しています。特に、酸素は生体の中で運動エネルギーを作るために欠かせないものです。ジョギングなど運動で息が切れるのは、運動中に必要となる酸素をたくさん取り込もうとしているためですが、酸素を最大でどれくらいの量を取り込めるか(最高酸素摂取量)が、その人がどれくらい運動できるか(運動耐容能)を決定するということが解っています。そして、その最高酸素摂取量は、独立した生命予後規定因子であることが知られています。つまり、最高酸素摂取量を知ることで、運動耐容能が把握でき、今後の寿命が推定できるようになるのです。CPXは、この最高酸素摂取量が測定できる検査です。

ワッサーマンの歯車から見た酸素の運搬

酸素は、筋肉を動かすときに必要なエネルギーを作るために欠かせないものです。運動する際、酸素は、吸気によって肺に取り込まれ、肺胞を介して赤血球のヘモグロビンに取り込まれます。赤血球に取り込まれた後、心臓のポンプ作用により血流にのって全身に送られます。最終的には、血流によって運ばれる酸素は筋肉に届けられます。筋肉では、筋肉内に存在するミトコンドリアで、炭水化物や脂肪を材料として、酸素はエネルギーと二酸化炭素とに変換されます。二酸化炭素は血流を介して心臓から肺へと運搬され、呼気として体外に排出されます。その際、二酸化炭素は速やかに排出される必要があります。運動中の必要なエネルギーを供給し続けるために「3つの歯車」である肺の呼吸機能、心臓のポンプ機能、筋のミトコンドリアでのエネルギー交換機能を介して、酸素と二酸化炭素をスムーズに循環させる必要があります。この3つの歯車の要素を考慮したガス交換の考え方を「ワッサーマンの歯車」といいます(図2)。

図2 ワッサーマンの歯車

ワッサーマンの3つの歯車を評価するためのCPX

CPX(心肺運動負荷試験)は、血圧、心電図、呼気ガスを計測しながら、エルゴメーターと言われる自転車をもう漕げなくなる限界まで行う運動生理学に基づく運動負荷試験で、このワッサーマンの歯車のひとつひとつの要素を評価できる検査です。運動中の酸素濃度、二酸化炭素濃度、換気量を分析するだけで、数多くの血行動態指標を得ることが出来ます。CPXを行うことで、ワッサーマンの歯車の入口と出口にあたる酸素摂取量、二酸化炭素排出量を評価することができるため、肺のみ、心臓のみ、筋肉のみといった単独の臓器を評価するのではなく、肺機能・心機能・末梢循環・肺循環・骨格筋機能を含んだ全身の運動耐容能を包括的に評価できるのが大きな特徴になります。また、一定の負荷をかけることが出来るため、運動強度に対応した生体応答を知ることができます。さらに、運動中の血圧や脈拍をモニターしながら、評価することができるため、安全に包括的な血行動態の評価が出来ます。

CPXを用いる本質的な意義

このCPXを利用することで、患者の運動耐容能指標・生命予後指標である最高酸素摂取量(peak VO2)を把握することができます。また、有酸素運動を行うことのできる脈拍の上限を知ることができます。有酸素運動から無酸素運動へ変化する点を嫌気性代謝閾値(ATレベル)と呼びます。ATレベルでの運動が効率よく脂肪を燃焼し、最も効率の良い運動が出来ると考えられており、心臓リハビリのガイドラインでも推奨されています。そして、CPXは、運動介入前後の改善の指標となります。つまり、採血検査データのように、運動療法による影響を科学的に評価する臨床指標となります。このように、CPXは、心臓リハビリの領域では運動処方や効果判定など重要な役割を果たしています。 

CPXで用いられる指標

CPXを行うことで多くの指標が得られますが、その中でも重要な指標としてPeakVO2、AT、RC、VE/VCO2 slope、△VO2/△WR、PeakVO2/HRが挙げられます(図3-4)。

図3-4 CPXで用いられる指標

  • RC (respiratory compensation point, 呼吸性代償開始点):アシドーシスをCO2排泄増加により、呼吸性に代償しようとする開始点で、運動負荷強度が生理学的に最大に近いレベルに達したことを示す指標です。VE/VCO2が持続的な上昇を始め、呼気終末二酸化炭素濃度(ETCO2)が持続的な下降を開始する点を指します。
  • VE/VCO2 slope(運動時換気亢進指標):VO2増加に対する換気量増加の比です。VE/VCO2 slopeの正常値は24~34の範囲内にあり、VE/VCO2 slopeの急峻化は、心不全に伴う肺の死腔換気率(生理学的死腔量/一回換気量)の上昇、動脈血CO2分圧のセットポイントの低下によりもたらされると考えられています。VE/VCO2 slopeは、運動負荷が最大負荷量や嫌気性代謝閾値に達しなくても得られるため、運動耐容能を簡便かつ安全に推測しうる指標として使用されています。また、PeakVO2と有意な負の相関が示されており、生命予後規定因子としても利用されています。
  • △VO2/△WR:ランプ負荷試験で得られる指標で、末梢の運動筋への酸素輸送の増加度を示しています。仕事量に対するVO2の増加を反映するため、運動中の心拍出量の増加の程度に依存していると言えます。正常値は10~11mL/min/Wattで心筋虚血や心不全で心拍出量の増加不良時に低下すると考えられています。また、心不全症例では末梢への酸素輸送能が低下しているためとも考えられています。
  • PeakVO2/HR(最高酸素脈、O2pulse):最大負荷時の心拍出量(心ポンプ機能)の指標です。VO2/HRとは、1回の心拍出によってどの程度の酸素摂取量が得られたかを表す指標です。よって、PeakVO2/HRは最大負荷時の心ポンプ機能を推定できます。心臓超音波検査では、あくまで安静時心臓のポンプ機能の評価ですが、PeakVO2/HRを把握することで、運動負荷時の心臓ポンプ機能を評価することが出来ます。

PeakVO2(最高酸素摂取量)

これ以上運動ができないという強度における最大酸素摂取量です。このPeakVO2は、一般的に運動耐容能の指標として広く用いられています。PeakVO2は、心不全の予後予測のみならず、生命予後に直結すると考えられています。つまり、最高酸素摂取量が多ければ多いほど、長生きすることとなります。

AT(AnaerobicThreshold、嫌気性代謝閾値)

有酸素運動から無酸素運動に変わる時点での酸素摂取量です。ATレベル以下であれば、運動療法中に乳酸を蓄積することなく、効率よく安全に運動できます。心臓リハビリの運動処方は、このATレベルの心拍数を元に処方されます(図5)。

図5 AT(AnaerobicThreshold、嫌気性代謝閾値)

おわりに

心臓リハビリは、心臓の病気の発症後も日常活動や運動を制限してしまうことがないよう、運動療法を続け、以前と同等の体力や生活の質を維持していくようにする治療プログラムです。さらに病気が悪くならないように予防法を学び、病気の自己管理を実践していくための治療プログラムでもあります。医師、理学療法士、看護師、薬剤師、栄養師などの多職種から構成される心臓リハビリチームで、CPXを取り入れた科学的根拠に裏付けられた栄養リハビリを実践することで、高齢者心不全の患者さんでも、健康的に動けるようになり、楽しい生活が送れるようになります。体力を回復させるとともに、心臓リハビリプログラム終了後も家庭での運動療法と再発予防に向けた自己管理を続けれるように協力していきます。実際、みんなで楽しく運動し、美味しくご飯が食べれるようになり、結果的に心不全や狭心症の症状が改善し、元気に暮らせるようになった患者さんは少なくありません。

急性心筋梗塞、狭心症、開心術後(冠動脈バイパス術・弁膜症手術など)、慢性心不全、大血管疾患(大動脈瘤・大動脈解離など)、末梢動脈閉塞性疾患の病気を持っている患者さんは心臓リハビリの適応になります(図6)。これらの疾患があり、少し動いただけで息切れがあったり、何するにしても筋力の衰えを自覚する患者さんがおられましたら、ぜひ原土井病院の心臓リハビリチームにご相談ください。

図6 心臓リハビリの適応となる心臓病

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