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心房細動について 原土井病院 副院長 教育・研究支援センター長 循環器内科部長 丸山 徹

図1 心房細動と脳梗塞の関係令和4年度から原土井病院に勤務しております丸山徹と申します。宜しくお願い致します。
大学病院では主に不整脈の診療を行っていました関係で、今回は心房細動のお話です。不整脈にはいろいろな種類があり、気にしなくていいものから命に係わるものまでさまざまです。心臓には左右の心房と心室があり、心房細動とは心房が小刻みに震える状態(細動状態)となる不整脈です。心房細動では心室は通常の収縮と拡張が出来ますが、規則正しい心拍のリズムは失われます。
心房細動はただちに命を脅かすことはありませんが、心臓の機能が低下してやがて心不全を引き起こすと心臓がポンプとしての役割を上手く果たせなくなります。また心房の中の血液がよどんで血の塊(血栓)を作り、脳梗塞を起こすことがあります(図1)。

心房細動では動悸やめまい、息切れを感じることも多いのですが、自覚症状が全く無いこともあります。定期健診で初めて見つかることも珍しくありません。脳梗塞が起きた後で心房細動が見つかることさえあります。したがって心房細動は早期発見がとても重要になります。

図2 自己検脈心房細動を早めに発見するには自分で脈をとる習慣を身に付けることが大切です(図2)。
これは自己検脈と呼ばれます。脈が弱く不規則で数えられないといった場合には医療機関を受診してください。また自動血圧計は通常心拍数も表示してくれます。安静時の心拍数が120以上であったり心拍数にエラー表示が出た場合にも心房細動を疑うことができます。最近ではスマートウォッチを利用される方が多いと思います。これにより心房細動をかなり正確に検出できたとする研究も米国で発表されました。

心房細動の原因

私が学生の頃は、心房細動の殆どは心臓弁膜症という心臓病が原因とされていました。しかし現在では、心房細動の原因は実に様々です(図3)。
高血圧や糖尿病がある人、ストレスが多く改めるべき生活習慣のある人は特に注意が必要です。また心房細動は加齢とともに多く見られる不整脈ですから高齢化社会であるわが国では今後もますます増えることが予想されます。

図3 心房細動が起こる原因

心房細動の治療

心房細動の治療は状況に応じてさまざまです。心不全を背景にした心房細動や全身状態の悪化をまねく心房細動では時に電気ショックも必要です。最近では心房細動をお薬以外の治療法(主にカテーテルを用いた治療法)で根治させることもよく行われます。このカテーテル治療は心房細動が起こり始めて1年以内であれば大変有効な治療法です。しかし心房細動が長く続いた状態ではお薬による治療が中心となります。お薬での治療は抗凝固薬と抗不整脈薬に分かれます。抗凝固薬は血液をサラサラにするお薬です。たとえ心房細動が続いても心房に血栓ができて脳梗塞を起こすのを予防してくれます。最近はワルファリン以外に直接経口抗凝固薬が普及していますが、いずれの抗凝固薬も出血が起き易くなる点には注意が必要です。抗不整脈薬は心房細動を止めて規則正しいリズムに戻したり、心房細動中の心拍数をある程度調節したりする目的で使われます。しかしお薬による心房細動の治療には限界もあり、お薬のみで心房細動を完全に予防することは困難です。

心房細動と認知症

最近の研究で心房細動の方は認知症にもなりやすいことが知られるようになりました。心房細動では脳梗塞を起こしやすいので、明らかな脳梗塞がなくても目に見えないごく小さな血栓が脳の細い血管に詰まる可能性があります。いわば隠れ脳梗塞を繰り返すことが認知症につながる訳です。また心房細動では心房のポンプ機能がなく心拍のリズム性もありませんから脳血流が常に低下しています。慢性的に脳血流が低下すると画像診断ではわずかながら脳が痩せてみえるようになり認知機能にも影響することが明らかになってきました。

まとめ

心房細動は心臓だけの問題ではなく、全身的な老化現象や不健康状態の心臓における表現型と見るべきかも知れません。医療機関では心房細動の背後にあるさまざまな全身疾患を見逃さないように努めています。とりわけ心房細動による脳梗塞は突然起きて重い後遺症を残すのが特徴です。社会的な著名人がこの病気で倒れてから心房細動がにわかに注目されるようになりました。日頃から検脈を習慣にしたり、スマートウォッチの心電図機能などを利用して心房細動がないかどうかをチェックすることが大切です。

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