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春は黄砂にご用心 原土井病院 副院長・心不全センター長 丸山 徹

黄砂とは

毎年、春になるとアジア大陸から黄砂が飛んできます。黄砂とはゴビ砂漠・タクラマカン砂漠・黄土高原などの砂塵が上空に巻き上げられて、偏西風などに乗って東アジアに広範に飛散した後、地上に落下したものです(図1)。

図1 黄砂が運ばれてくる仕組み

最近の研究では黄砂には砂塵だけでなく、花粉やPM2.5、さまざまな大気汚染物質も含まれていることが分かってきました。近年では、黄砂による環境や経済への影響もさることながら、ヒトの健康への影響が問題視されています。とりわけPM2.5は従来からの環境基準の対象となる浮遊粒子状物質より小さな粒子(髪の毛の太さの1/30程度)で健康への影響はまだ完全には分かっていません(図2)。

図2 黄砂に含まれる様々な物質

黄砂と健康被害

黄砂は肌荒れや、結膜炎を引き起こしたり、喘息などのアレルギー疾患や気管支炎などの呼吸器疾患を増悪させます。これらの疾患は黄砂の代表的な健康被害として取り上げられがちです。毎年、今の時期は外出を控えたり、コンタクトレンズを眼鏡に替えたり、外出の際にはゴーグルまがいの眼鏡や不織布マスクを着用したり、帰宅時にはうがいや手洗い、洗顔をしたり、洗濯物の外干しを避けるなどの黄砂対策をされている方も多いと思います(図3)。
これらの健康被害はご自身でも症状が分かりやすく、また黄砂対策の効果も実感しやすいという特徴があります。のどや目の痛みの改善は黄砂対策のよい目安となります。
黄砂の季節は目や鼻、皮膚などにアレルギー症状が出る人がいます。頭痛や鼻閉、熱っぽさや体のだるさを訴えられる人もいます。これらをまとめて黄砂アレルギーと呼ぶこともありますが、黄砂自体のアレルギー検査は出来ません。黄砂粒子には砂塵や鉱物、花粉、SPM(浮遊粒子状物質)、PM2.5など非常に多くの物質が含まれているからです。特定のアレルゲン(アレルギーを起こす原因物質)を同定するのは困難だからです。

図3 黄砂による健康被害と対策

黄砂と心臓病

一方で、黄砂の心臓病への影響についてはあまり知られていません。黄砂の健康被害はアレルギー体質の子どもや若年者以外では高齢者に多いとされてきましたが、これまで高齢者の黄砂による健康被害は、呼吸器疾患のみでは説明が難しかったわけです。そこで高齢者に多い心臓病と黄砂の関係が注目されるようになりました。最近、国内の研究機関から、黄砂が飛来した翌日に急性心筋梗塞になる方が多くなるという衝撃的な研究結果が発表されました。またその危険性は、❶高齢者、❷高血圧の方、❸糖尿病の方、❹慢性腎臓病の方で高くなるという結果でした(図4)。多くの生活習慣病をお持ちの方は黄砂による心臓への悪影響も大きくなる可能性があることを示しています。黄砂に限らず大気汚染は、ヒトの体内に炎症反応や酸化ストレスを引き起こしたり、自律神経を不安定にしたりします。これらが動脈硬化を進めたり、心臓の血管の狭い部分を不安定にしたり、血液をドロドロにしたり、心臓がより多くの酸素を必要とする状態にしたりすることが急性心筋梗塞を発症させやすくするものと考えられます。

図4 心筋梗塞発症前日の黄砂と心筋梗塞との関連(背景要因による群分け)

心臓病の方の対策

グローバル化する黄砂の心臓病への影響については、まだ十分に分かっていない面もあります。アレルギーや呼吸器の病気の方のみならず心臓病の方もこれからの季節は黄砂の飛来情報や安全情報に注意されて、早め早めの対策を心がけて下さい。この時期には血圧が高くなったり、不整脈が出たりして心臓の調子を崩される方もおられます。季節の変わり目や年度替わりの忙しさの影響もあり、黄砂の影響だけとは限りませんが、心臓病の悪化がこの時期ご心配な方はぜひ病院で専門医にご相談されてください。

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