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特集・コラム

光老化について 原土井病院 皮膚科医師 山村 美華

皮膚は私たちのからだを覆うだけでなく、生体にとって大切な機能を担っています。全ての臓器は年齢を重ねるとともに自然老化(いわゆる老化)という変化を来しますが、これに加えて皮膚では、紫外線の影響によって生じる光老化がみられるのが特徴です。顔のシミ・シワの約80%は光老化によるものとされています。それだけでなく、光老化は基底細胞がんや有棘細胞がんといった皮膚がんの一因となることが知られています。
光老化は紫外線という環境因子による老化ですから、紫外線を防御することによって防ぐことができます。今回の特集では、この光老化と予防についてご紹介します。

光老化とは

皮膚の光老化とは、長時間にわたる紫外線暴露によって細胞のDNA損傷、炎症・酸化ストレスが引き起こされ、皮膚の構成成分である膠原線維や細胞基質に変性が生じた状態です(図1)。この結果、皮膚表面(表皮)の下にある真皮という部分のコラーゲンの質や量が衰退し、深いシワなどが生じます。
図1に真皮コラーゲンを染色したものを示しますが、褐色に染まったコラーゲンが、上の正常皮膚に比べて、下の紫外線に長期間暴露された皮膚では明らかに減っているのがわかります。顔面や手の甲など長期間紫外線に暴露された部分に深いシワができるのはこのためです。

紫外線を知る

地表を覆っているオゾン層を通過して地上に届く紫外線は二種類あり、波長の長さによって短いB波(UVB)、B波より長いA波(UVA)にわけられます。波長が短いほど生物に対する影響が強いのですが、波長が長いほど皮膚の深くに入り込む性質があります(図2)。強い日光にあたると肌が真っ赤にやけたり水膨れができるのはUVBが原因です。波長が短いので地上に到達する量は全紫外線量の約10%と少量ですが、太陽光線の中で最もエネルギーが高いので、肌表面の細胞を傷つけたり炎症を起こします。日焼けを起こす力で比べると、UVBはUVAの約1000倍も強いといわれています。一方で、波長が長いUVAは肌の奥深く(真皮)まで到達し、じわじわと影響を及ぼします。肌に急な変化を与えないUVAは、長い間皮膚に害がないと考えられてきました。しかし、1990年代より様々な研究が行われた結果、UVAは長期的に表皮の下にある真皮の損傷を徐々に誘発し、皮膚の構造および色素(外観)の変化をもたらすことがわかってきました。

図2

日光と上手に付き合う

このように、光老化を引き起こす紫外線ですが、一方で私たちの体にとって必要な役割も担っています。低線量の紫外線は皮膚がコレステロールからビタミンDを合成するのを促進し、腸からのカルシウム吸収を助け、骨粗しょう症の予防になります。また、血管拡張作用のある一酸化窒素の放出を促し、血行の改善をもたらします。さらに、たとえ短時間であっても日光を浴びると、私たちの脳ではエンドルフィン類の合成が促進され、ストレスが軽減され気分が良くなります。皮膚科では紫外線の性質をうまく利用してアトピー性皮膚炎や乾癬などの治りにくい皮膚疾患の治療に光線療法を行うこともあります。しかし、中線量~高線量の紫外線は、表皮と真皮の両方で潜在的に多くの遺伝子の発現を変化させ、がんを含む皮膚疾患の原因となることがあります。
 紫外線による悪影響を防ぐには、真っ赤に焼けるような日焼けをしないことがまず大切です。紫外線は目に見えないので知らない間に多く浴び過ぎてしまいます。UVAは雲や窓ガラスを通過するので曇りの日や屋内でも要注意です。UVAの線量はUVB同様に昼間に多く、夜間~早朝は低下しますが、季節的には春から秋までしばらく高い線量で推移しますので注意が必要です(図3・図4)。
 どの季節、どのような時間に、どのくらいの紫外線が存在するかを知って、日光と上手に付き合っていきましょう。

光老化を予防しましょう

サンスクリーン剤(いわゆる日焼け止め)を使用して、過度の紫外線から皮膚を守りましょう。光老化に関しては現在、様々な研究が行われており、サンスクリーン剤の使用による、美容面と発がん予防の面からの光老化予防効果が報告されています。また、日本の高齢者を対象としたサンスクリーン剤の日常使用試験においても、サンスクリーン剤を多く使用する被験者では、色むら面積・シミの数・角質水分量低下が予防されたとの報告があります。(Mizuno,M.etal,Cosmet. Investig. Dermatol. 2016)
サンスクリーン剤の紫外線予防効果は、SPF(主にUVBによる日焼けを抑える指標)とPA(UVAを抑える指標)があります。SPF・PAともにある程度高いものが望ましく、図5に生活シーンに合わせたサンスクリーン剤の選び方をお示ししているので、参考になさってください。

図5

当院皮膚科外来でも、いくつかの種類のサンスクリーン剤の試供品を用意しておりますので、どれを使ったらよいかわからない際には、お気軽にご相談ください。
光老化は予防が可能です。上手に日光と付き合うことで紫外線を防御し、皮膚の老化に関わる環境因子への暴露を少なくすることで、いつまでも健康で若々しい皮膚を維持していきましょう。
私たち皮膚科医が、皆様の健康な肌を維持するためのお手伝いが出来たら幸いです。

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