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特集・コラム

高齢者の専門医について 原土井病院 内科統括部長 近藤 誠司

「高齢者の専門の先生」っているの?

図1 内科領域として日本専門医機構から認定されているサブスペシャリティの専門医「人生100年の時代」を迎えてご高齢の患者さん特有の体、心、生活などに合わせた医療の必要性が増しています。今回この特集では、ご高齢の患者さんの専門医についてご説明します。
まず「高齢者の専門の先生っているの?」ということです。答えは「ご高齢の患者さんの専門医はいます」となります。
私は昨年まで、日本内科学会専門医制度審議会の九州地区委員をしておりましたので現時点での日本内科学会の専門医についてご説明します。
現在、日本内科学会の専門医は2段階になっており、内科専門医を基本(領域)として、サブスペシャリティ(専門領域)に15の領域が認定されています。その一つが「老年科専門医」です(図1)。

次に「高齢者の専門医=老年科専門医」についてご説明します。そのイメージを「日本老年医学会」のホームページから抜粋しました(図2)。患者さんを、病気の治療は勿論の事、ご高齢の患者さん特有の病態、生活などを踏まえて一人の人間として総合的に診療することを重視しています。

図2 老年科専門医が実践する専門的医療

実際の症例で見てみましょう

では「老年科」の観点から患者さんの診療につきまして実際の症例でご説明いたします。下の(表1)をご覧ください。

表1

まず高齢者の総合的機能評価です。高齢者の診療は疾患評価だけでなく包括的・総合的な評価が必要です。
これをCGA(高齢者総合的機能評価、comprehensive geriatric assessment)と呼びます。(表2

表2

また、義歯もなく咀嚼力も十分でオーラルフレイル※2もありませんでした。
90歳台のご年齢にかかわらず認知症の症状は全くなく、慢性心不全の急性増悪前は運動面の障害はありませんでしたが、心不全に伴い日常生活動作の低下を来すようになりました。認知面で問題ないことから短期的にはご年齢に応じた急性期治療を開始するとともに元の生活を目指して中長期的な計画も同時に開始しました。
入院早期は循環器専門医の助言の上で急性期治療を行い、症状が安定した段階で慢性期心不全の治療(参考1)、在宅復帰のためのリハビリテーション、在宅復帰のための調整を同時並行して多職種連携で行ないました。地域包括ケア病棟ですので60日以内の退院を目標としています(図3)。

図3「本患者さんの治療の流れ」

患者さんがご自宅で今後もお一人の生活を送られるかをご家族も含めて頻回に話し合いましたが、最終的には多くの方の目が届き、また住み慣れた自宅の近所でもある高齢者施設への転居となりました。施設で心不全の増悪なく、また不自由なく生活できるように、心臓のお薬の調整をしながら生活にあわせたリハビリテーションを施行しました。施設での内科的管理はお近くの先生にお願する予定です。

住み慣れた地域で安心して暮らせるように

福岡市では現在「福岡市地域包括ケアアクションプラン」を推進しています(図4)。団塊の世代が75歳以上となる2025年に向け、「誰もが個人として尊重され、人生の最期まで住み慣れた地域で安心して暮らせるまちを目指して」市民、行政、医療・介護機関等が連携してその実現に取り組んでいます。当院は今後も「福岡市地域包括ケアアクションプラン」の実現に向けて、地域のケアマネージャー、介護事業者の方々、地域の先生方、看護師さんなどと連携し、ご高齢の患者様の診療に携わってまいります。

改善プログラム1 お口・舌の動きをスムーズにするプログラム

当院内科はご高齢の患者さんを総合的に診療するために老年科の専門医3名(指導医2名)、総合内科専門医6名(指導医1名)が在籍しております。さらに、日本老年医学会の認定施設でもあります。また、ご高齢の患者さんの診療を熟知した内科の各サブスペシャリティーの医師が在籍し(参考2)、ご高齢の患者さんが安心して診療、生活できるように日々努力しております。今後も、ご高齢の患者さんが住み慣れた地域で安心して生活できますことを切に願っております。

参考1:高齢者の慢性心不全の標準的治療は?

参考2:原土井病院内科系の専門医

  • ※1 駆出率:心拍ごとに心臓が放出する血液量(駆出量)を拡張期の左心室容量で割って算出したもの。50%以上が正常とされる。
  • ※2 オーラルフレイル:噛んだり、飲み込んだり、話したりするための口腔機能が衰えること。
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