特集・コラム
ウィルス感染症とは?
昨年の3月以降、新型コロナウィルスの感染拡大により、日本中が生活様式の変更を迫られるほどの影響を受けました。
ウイルス感染症とは、体内に入ったウイルスが増殖し、ウイルス量が増えることにより、発熱や咳、倦怠感などの症状が引き起こされた状態のことを言います。そもそもウイルスとはどんなものでしょうか?ウイルスは遺伝情報である核酸(DNAまたはRNA)とそれを包み込むタンパク質の殻からなる、とてもシンプルな構造になっています。またタンパク質の殻にはスパイクタンパク質といわれる、それぞれのウイルスに特有のとげがついています。ウイルスは遺伝情報しか持たないため、細菌のように自分で細胞分裂をして個体数を増やすことができません。ではウイルスはどのようにして増殖していくのでしょうか?ウイルスの個体数を増やすためには、遺伝情報であるDNAやRNAをたくさん作らないといけません。またそれを包む蛋白の殻もたくさん作らないといけません。そこでウイルスは取り込まれた生物の細胞を利用して、次のように増殖していきます。
- ①生物の細胞の受容体にくっつき、細胞内に取り込まれる。
- ②タンパク質の殻が壊れ、中の核酸が細胞内に放出される。
- ③遺伝情報が細胞内の核酸を使って複製される。
- ④ウイルスの遺伝情報に基づいてタンパク質の殻が作られる。
- ⑤③④を使ってウイルスが大量に複製され、細胞外に放出される。
このようにウイルスは生物の細胞の中で増殖をしていきます。
どのようにして治療するのか?
細菌感染のように病原体を直接攻撃する抗菌薬のような薬で、なおかつ自分の細胞には悪さをしない薬の開発は難しいものになります。世界中でこぞってどんな薬が有効なのか臨床試験をおこないました。他のウイルス感染症の治療薬であったレムデシビル(ベクルリー)やファビピラビル(アビガン)などです。ウイルス感染症の適応を持っていない急性膵炎の薬や関節リウマチの薬、気管支喘息の薬など、いろんな薬が治療薬の候補に挙がりました。現在日本でCOVID-19の治療薬として承認を受けているのはベクルリー点滴静注用だけですが、今後も引き続き新たな治療薬の開発が進められていくことでしょう。関心を持って見守っていきたいと思います。ではウイルス疾患はどのように治療するのでしょうか?多くの場合は栄養・水分を摂りながら安静にする一般療法や、解熱・鎮痛薬の投与などの対症療法をおこないながら、自分の本来持っている体内の免疫反応によりウィルスが排除されるのを待つ保存療法が取られます。
ワクチンについて
現在治療薬と同様開発競争が激しいものにワクチンがあります。ワクチンとは、病気の原因になる病原体や細菌の毒素の病原性や毒性を弱くしたり無くしたりしたものです。事前に接種しておくことで、その病気に対する免疫力を上げて、感染症の発症あるいは重症化を予防することができます。新型コロナには未だ特効薬がありませんので、ワクチンへの期待が高いことも頷けます。免疫機能とは、体内に侵入してきた病原体から身を守るために抗体というタンパク質を作って病原体に抵抗する機能を言い、一度作られるとその病原体は記憶され、再度侵入した際には素早く抗体が作成されるようになります。この仕組みを利用し、ウイルスの毒性を弱くしたり(生ワクチン)、バラバラに断片化し無毒化したもの(不活化ワクチン)を一度体内に入れ、抗体を作らせるようにしたものがワクチンです。従来ワクチンの製造には鶏卵が使われました。受精後10日くらい経過した鶏卵にウイルスを注射し、鶏卵内でウイルスが増殖したタイミングで卵を割りウイルスを回収、ホルマリンで不活化するとワクチンの出来上がりです。おおよそ卵1個から1人分のワクチンができます。この製造法だと時間とコストがかかりすぎ、今回のCOVID-19感染症のように爆発的に患者が増えた場合、とても対応できません。そこで現在の抗COVID-19のワクチンは短期間に大量に製造できるように開発されています。
抗COVID-19のワクチンとは?
現在日本で承認を受けているファイザー製のワクチンについて詳しく解説します。
商品名コミナティ筋注
mRNA(メッセンジャーRNA)ワクチン
mRNA
タンパク質を作るための設計図。
薬の作用
コミナティ筋注のmRNAにはCOVID-19のスパイクタンパク質を作る鋳型となる遺伝情報が組み込まれており、ワクチンを筋肉注射することにより、mRNAが細胞内に取り込まれます。細胞内ではmRNAを鋳型としてウイルスのスパイクタンパク質が作られていきます。作られたスパイクタンパク質が細胞外に出てくると、免疫機能が働いて、スパイクタンパク質に対する抗体を作り始めます。一度獲得した情報は記憶されるため、本物のCOVID-19に罹患した際にはいち早く抗体が作られ、体内でのウイルスの増殖を抑え込みます。注射によって取り込まれたmRNAは分解されてしまうので、人の遺伝情報に組み込まれてしまうことはありません。
接種方法
肩の三角筋に筋肉注射します。接種会場には袖をまくり肩口まで出せる服装で行ってください。このワクチンは3週間の間隔をあけて2回接種します。
効果
2回接種した場合の有効性は95%と言われています。ちなみにインフルエンザワクチンの有効性は60%程度です。効果の持続期間については新しい薬なのでまだ解っていません。
副反応
注射部位の疼痛や、筋肉痛、頭痛、発熱、倦怠感などがありますが、若年者よりも高齢者の方が発現頻度が若干低いとの報告があります。
重篤なものとしてアナフィラキシーショックがありますが、多くの場合接種後15分以内に発症しますので、30分程度接種会場で待機してご自身の様子を見てください。
費用
全額公費のため、無料で接種できます。
まだ新しい薬剤ですので不安に感じることもあるかと思いますが、多くの人がワクチンを接種し、免疫を持った人の割合が多くなると、間接的に免疫を持たない人も感染から守られる集団免疫という状態になり、感染症から守られた社会を作ることができます。ワクチンは緊急事態宣言のない社会を作る有効な手段の一つではないでしょうか。
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