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特集・コラム

心不全と塩分の関係 原土井病院 副院長、教育・研究支援センター長 丸山 徹

心不全とは

心不全とは、心臓がだんだん弱くなって命を縮めてしまう病気です。わが国でも高齢化とともに心不全の患者さんは増える一方です。心不全の方は病院で塩分を控えるように指導されます。塩分を取り過ぎると心不全が悪くなって、日常生活に支障をきたし、お薬も増えて入院につながるからです。しかし食事はもっとも身近なことで私たちの生活に欠かすことは出来ません。いちいち塩分を気にしながら食事はできないというご意見も聞きます。今回は心不全の方の塩分の取り方について考えてみましょう。

塩分を取りすぎると

心不全の患者さんは食事で塩分をどれくらい控えるべきか…これはむつかしい問題です。心臓についての学会でも議論の的であり、今もはっきりした結論はでていません。塩分をたくさん取ると血管が収縮して血圧が上がります。また血管の中の水分の量が多くなり、腎臓への血液の流れが増えます。それにより余分な塩分が尿から出やすくなりますが、心不全の方はうっ血という状態になります。血圧の上昇とともにうっ血は心臓や腎臓に負担をかけて心不全を悪化させます。足がむくんで息苦しくなるのもうっ血が原因です。

塩分をあまり制限すると

しかし一方で、塩分を極端に控えると塩分をからだに蓄えようとするホルモンがかえって活発になったり、食欲が低下して栄養状態が悪くなったり、体重が減少してフレイルになる危険性があります。塩分制限を行った心不全のグループと行わなかったグループのその後の健康状態を比較した国際研究があります。これによると塩分制限を行っても心不全で亡くなったり入院したりする割合が下がることはありませんでした。ただ塩分制限により心臓が楽になって歩行距離が延びて、日常生活を送りやすくなったという結果でした。ところがこの場合の塩分制限は1日3.8g未満と非常に厳しいものでした。わが国ではあまり参考になりませんね。

日本人の場合は

日本人は1日に11-12gの塩分を取っています。これは国際的に見ても多い量です。そこでわが国の心不全の方が取る塩分量は関連の学会で1日6g未満が適切とされており、当院の減塩食も1日6gを基準としています。病院の食事はあらかじめ塩分量が決まっていますが、日常生活でどれくらいの塩分を取っているかはわかりません。

そこで病院では尿に出る塩分の量を調べます。尿中の塩分の排泄量と心臓や血圧に関するリスクの関係を調べた国際研究によりますと両者の関係はJカーブを示しています(図1)。

図1:塩分排泄量と心不全等リスクの関係

日本人に比べて塩分摂取量が少ない欧米人でも尿の塩分排泄量が1日6〜9gの住民が最も心血管病のリスクが少ないという結果です。尿の塩分排泄量は塩分の摂取量を反映しますから塩分摂取が多くなるほど心血管病のリスクが増えるのは理解できます。しかし塩分排泄が6g未満でも心血管病のリスクが増えるのはなぜでしょうか。食事で塩分を控えている人々は既に心血管病があったり、過度の塩分制限が体重減少やフレイルにつながった可能性も考えられます。

カリウムは大切

わが国では食事に関する大規模な研究は少ないのですが、既に血圧のお薬を飲んでいる高血圧の患者さんを対象にした研究では、なんと1日の尿中の塩分排泄量は心血管病のリスクとは無関係で、むしろ尿中のカリウム排泄量が少ない人ほど心血管病のリスクが高いという結果でした(図2)。

図2:カリウム排泄量と血管病等リスクの関係

どうやらカリウムが豊富な野菜や果物をたくさん食べている人ほど心血管病になりにくそうです。カリウムは塩分を尿に出す働きがあることに加えて、野菜や果物に含まれるビタミン、カリウム以外のミネラル、食物繊維なども心臓や血管にいい影響をおよぼすと考えられます。特にビタミンCやビタミンE、カロチンは抗酸化作用があり、老化の原因となり動脈硬化の元になる活性酸素を取り除いてくれます。最近では心不全そのものも活性酸素が原因で悪くなることがわかってきました。

「減塩」と「適塩」

心不全の方はもちろん塩分の取り過ぎに要注意です。しかしあまり減塩に神経質になると毎日の食事の楽しみがなくなり食欲にも影響します。食事量が減ってフレイルやサルコペニアとなってはかえって心不全も悪くなります。うま味(昆布、カツオ節、キノコ類)や酸味(かんきつ類、トマト)、辛味(わさび、生姜、しそ)、コク(ごま油、オリーブ油、乳製品)を利用して飽きの来ない塩分控えめの食事を心がけましょう。心血管病に加えて腎臓病をお持ちの方は病院の血液検査で調べるカリウムの値を参考にしながら野菜や果物を取り入れる工夫(茹でこぼしや水さらし)をしましょう。岐阜大学病院で心不全患者さんの心臓リハビリテーションをされている湊口先生は「減塩」ではなく「適塩」が大切と言われます。図1のJカーブはそれを示すといえるでしょう。

心不全の方は病院の血液検査やお薬手帳を確認しながら食事に野菜や果物を上手に取り入れて楽しく「適塩」する食生活を送ってください。

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