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特集・コラム

高齢者の低栄養について 原土井病院 栄養管理科スタッフリーダー 市川 真代

突然ですが皆さんPEM(ペム)という言葉をご存じでしょうか?
人が生きるために重要な栄養素であるたんぱく質、活動するために必要なエネルギーが不足した状態のことをPEM「Protein energy malnutrition=たんぱく質・エネルギー低栄養状態」と言います。
「若い女性が過度なダイエットのあまり低栄養になる」というイメージをお持ちの方も少なくないと思いますが、実は高齢者こそPEMに陥るリスクが高いのです。今回はこのPEMが身体にもたらす影響や予防するためのポイントについてお伝えしたいと思います。

加齢と食事の関係

年を重ねることが食事に与える影響には様々なものがあります。
「噛む力・飲み込む力が弱まる」「おいしさを感じる五感が衰える」といった身体的なもの、「独り暮らしなどで買い物に行くことや家事をすることが困難である」といった環境によるもの、「身近な人の不幸などからうつ傾向となる」といった心理的なもの。また「複数の疾患を抱えることで服薬が増える」ということも挙げられます。
ご高齢者においてはこのような要因が重なることで食事摂取量が減少、低栄養の状態になるリスクが高くなるのです。では低栄養が身体に及ぼす影響とはどのようなものなのでしょうか。

低栄養の悪循環

低栄養の状態になるとまず、体重の減少や筋力の低下がみられます。筋力が低下することにより転倒・骨折のリスクが高くなるほか、血管に水を保つ力が弱まるので身体がむくんだりします。また免疫力も落ちて風邪や肺炎にかかりやすくなります。怪我や病気の影響で体を動かすことが困難になると活動量も低下します。身体を動かさなければお腹も空きませんので食事量がますます減少、という低栄養の悪循環に陥ってしまいます。この悪循環にはまってしまうと抜け出すのがだんだん難しくなりますので早めの対策が必要です。そのためにはどのようなことに気を付けたら良いのでしょうか?日常生活のなかでチェックできるポイントをご紹介します。

図1

歩行スピード

活動量の減少や筋力の低下の目安のひとつとして歩行スピードがあげられます。
歩く速さをご自身で測る機会はほとんどないと思いますが、例えば信号のある横断歩道を渡る際「これまでは楽々間に合っていたのに最近では渡り終わる前に青信号が点滅する」といったことがあれば、それは活動量減少・筋力低下の兆しかも知れません。ほかにも「手すりにつかまらないと階段が登れなくなった」というのも目安になります。
普段の生活の中でそのような点に注意を払うことで、ご自身の身体のちょっとした変化に気付くきっかけになります。

体重

入院患者さんにお話しを伺う際、必ずお尋ねしているのが体重についてです。
皆さんは普段定期的に体重を測っていますか?体重測定は病院での血液検査などと違いご自身で取り組むことができるため、日常生活の中で低栄養に気付くための大事な指標となります。測定した体重は①BMI、②体重減少率によって適正かどうかを判断します。

❶ BMI

BMI(Body Mass Index)は肥満や低体重の判定に用いられる国際的な指標で、体重(Kg)÷ 身長(m)÷ 身長(m)で算出します。厚生労働省が公表している「日本人の食事摂取基準(表1)」ではエネルギーの充足率を判断する指標としてBMIが使われていて、これによると65歳以上の高齢者が目標とするBMIは21.5から24.9の間とされています。

表1

若い方よりも高齢者の方が目標とするBMIの下限値が高いのは、低体重により引き起こされる虚弱の予防に配慮されてのことです。BMIがこの範囲に収まっていれば、エネルギーが過不足なく摂れているということになります。21.4以下となると免疫力が低下し風邪や肺炎にかかるリスクが高くなります。一方25を超えてしまうと過体重となります。過体重は生活習慣病の要因とも言われていますので体重をコントロールすることが重要になります。特に高血圧などの疾患を抱えている方は合併症のリスクも高まるので注意が必要です。図2を参考にして実際に計算してみましょう。

図2

BMIの数値が25を超えた方も急に体重を落とそうとせず、無理のないペースで標準体重に近付けるようにしましょう。また低体重の方も20代の頃から同じ体重を維持しているという方であれば無理に体重を増やす必要はありません。今の体重を維持することを目標にしてみてください。

❷ 体重減少率

低栄養状態に陥らないためには現在の体重を知るだけでなく、体重の変化に目を向けることが大切です。表2「体重減少率からみる低栄養のリスク」をご覧ください。意図せずに1か月で5%、3か月で7.5%、半年で10%の体重減少がある場合は低栄養のリスクが高いと判断されます。定期的な体重測定をすることでご自身の身体の変化に気付くことが大切です。測定誤差をできるだけ小さくするために、毎回同じタイミングでの測定を心がけましょう。

表2

低栄養にならないために

低栄養にならないために大切なことは「栄養バランスのとれた食事を規則正しく食べること」というのは皆さんご存じのとおりです。けれど買い物や料理が困難な方がこれを実践するのはなかなか難しいと思います。お料理が苦手な方は市販の総菜や缶詰、レトルト食品を上手に活用してみましょう。また買い物に行けない方も配食弁当であれば、主食・主菜・副菜のバランスがとれた食事が可能です。
一度に十分な量が食べられない方、また食欲がない時や体調が優れない時などは間食や栄養補助食品で補うのも有効です。最近では様々な種類の栄養補助食品が手軽に購入できるようになっています。
もしかしたら「コロナ禍で家族や友人など親しい方との食事の機会が減った」というのも食欲不振の原因のひとつかも知れません。無理をせず、食事を楽しんで、低栄養の予防に努めていただきたいと思います。

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