植樹をいのちの証とする

日野原重明 著 『95歳からの勇気ある生き方』より転載

長年アフリカの緑化運動に取り組んできたケニアの女性環境活動家ワンガリ・マータイさんが、二〇〇四年のノーベル平和賞を受賞しました。樹木のない農村に苗木を配るため、自宅の庭から始めた苗木畑はいまや三千カ所にも増えたそうです。今回の受賞で、「環境は平和を守るための重要な要素です」というメッセージを発表しました。
私は二〇〇〇年九月に「新老人運動」を提唱し、「新老人の会」の会長を務めています。六五歳以上を高齢者と呼ぶ習慣をあらためて、新しく定義した七五歳以上の「新老人」たちとともに活動してきました。活動のスローガンは、「愛すること」「耐えること」「新しいことを創めること」で、北海道から九州まで全国に二〇の支部を結成し、それぞれがユニークな活動を展開しています。九州支部の世話人代表は原土井病院長の原寛さんです。原先生は福岡市内で、総合病院のはかに、リハビリテーションや緩和ケア病棟などの諸施設を経営しています。
九月末に同市でブロック会議を開いたときのことです。原先生は、会議に出席した私たちをある場所に案内しました。そこは原土井病院系列のリハビリテーション施設の近くにある植樹園でした。原先生は九州の会員に呼びかけ、「樹人千年の会」をつくり、お墓の代わりに樹木を植える活動をしています。会員は生存中に自分の好きな苗木を選び、それを施設の患者がリハビリ作業として、植え付けや給水をします。私も苗木を自分で植えて土をかけ、名札をつけました。

この発想は緑化事業運動にも連なるもので、植樹葬と呼んでもよいものです。七五歳になれば生前に植樹し、亡くなれば家族の希望で樹木の根元に名前と生存期間を記した小さな木の標識を置いてもらってもよいのです。私は会員の多い東京支部の世話人会と相談して、自分の墓に骨を埋めるのではなく、生前に大木となる苗木を植えることを会員に勧めています。七五歳で苗木を植えて九五歳で亡くなると仮定すれば、二〇年分の樹木の成長が見られます。家族や友人は墓参の代わりに形見の樹木を訪れ、故人の霊をしのぶという発想です。苗木は死後も成長し続けるので、家族や友人は生きた「故人」に再会できるわけです。この運動はその後信州松本市に及び、北アルプスを見渡せるアルプス公園の一角に、松本市の「新老人の会」の会員と松本市長との間で計画されています。山を開拓し緑を犠牲にするさまざまな事業は、日本が目指すべき緑化運動を妨げています。

草木を愛し、動物を愛し、人を愛し、いのちを大切にするという生き方を子どもの世代に伝える上でも、地球緑化運動の一つとして、自分の生きていた証を樹木に託し、植樹林を育てるという活動は、意義深いことと思われます。原先生が新しく始められたこの事業に、私は心から賛同したいと思います。(「新老人の会」の会員は、発足当時は七五歳以上の高齢者としましたが、その後七五歳以上をシニア会員、六五歳以上を準シニア会員、四〇歳以上をサポート会員としました。)